#12 気候変動とニュース〜環境ドキュメンタリーの可能性 / ロイタージャーナリズム研究所『デジタルニュースリポート』2022より
こんにちは。新しく登録してくださったみなさん、ありがとうございます。継続して読んでくださっているみなさん、いつもありがとうございます。
今回は先日公開されたとあるレポートの中で話題になっていた『気候変動に関するニュースへのアクセス方法と考え方』について取り上げたいと思います。
レポートとは、毎年6月に公開される、デジタルニュース業界における毎年恒例の調査レポート、英オックスフォード大学ロイター・ジャーナリズム研究所による「Digital News Report 」の2022年版です。
このレポートは今年で11年目を迎え、世界6大陸46市場、9.3万人を対象にした大規模で包括的な調査という点で、メディア業界の中ではよく知られているものです。今年からNHK 放送文化研究所がこの調査 に協力しているとのことで、日本目線での簡易レポートも公開されてます。
▶『世界で“ニュースへの信頼”低下 日本では信頼は上昇するも関心は低下』
そのレポートの中の特集コンテンツとして、『気候変動に関するニュースへのアクセス方法と考え方(How people access and think about climate change news)』という短い調査結果が紹介されていています。新しい発見と学びがいくつかあったので簡単にご紹介させてください。
まず注目したのは、世界のデジタル・ニュースについての包括的な調査の中で、「気候変動」に特化した調査が前回2020年に続き別途取り上げられている点です。コロナ禍、ロシアによるウクライナ侵攻、インフレのような目の前に差し迫った危機に比べると、じわじわと進行していて、それでいて複雑で、憂鬱な気持ちにさせるトピックとして、とても扱うことが難しい一方で、その重要度が増しているからだと思われます。同時に、政治的な偏向によって気候変動関連ニュースへの興味が異なることで陰謀論・否定論・懐疑論が溢れたり、世代間での受け止め方も大きくことなる、という悩ましい背景があります。
「政治的な立ち位置(leaning)による気候変動関連のニュースに対する興味の比較」を示す以下のグラフはとても印象的でした。日本では左派(リベラル)と右派(保守)の差異がたった2%しかなく、平均して48%が気候変動関連のニュースに興味を持っていることが示されてます。一方、オーストラリアやアメリカでは右派(保守)系の人はそれぞれ20%、14%しか興味を持っていないことが示されてます。そして左派(リベラル)と右派(保守)の差異はそれぞれ36ポイント、41ポイントもの開きがあり、分断化していることが伺えます。
もうひとつのあたらしい気付き・学びとして、気候変動に関するニュースについて、人々が最も注目しているのはどのような情報源なのかについての項目です。調査全体では主要な報道機関(33%)よりもドキュメンタリー番組(39%)に注目していると答える人の方が多いことが示されてます。(例外として、日本ではドキュメンタリー(27%)よりも主要な報道機関(41%)に注目していると答えた人の割合が多い結果となっています。)
複雑な事象をビジュアル表現やストーリーテリングの手法で伝えるメディアとして、ドキュメンタリー作品、そしてTED等のプレゼンテーションの動画等も今後活用できる余地があるのではないか、と感じた次第です。例えば、Netflixはこの春アースデイに併せて地球環境やサステナビリティに関連した作品コレクション「ひとつの世界、無限の驚き」を公開しています。
また、TEDではClimate Changeをテーマにしたプレゼンテーションの特集ページがあり、多くの学びを得ることができます(以下は該当ページをDeepL翻訳したスクリーンショット)。
以上、簡単なご紹介ではありましたが、詳しくはnote/COMEMOブログに書かせていただきました。よろしければぜひご覧ください。
⭐今週気になったニュース・トピックス
『ESG投資の実態は”グリーンウォッシュ”にメス』[6/12/2022 NHK]と題して、環境先進国・ドイツにおいてESG投資をめぐってドイツの金融大手が当局の家宅捜索を受けたことをきっかけに話題になっている、「グリーンウォッシュ=“名ばかりESG投資”の排除に対する当局の対応が紹介されてます。
過去1週間の気候変動や脱炭素をテーマにした記事をBuzzSumoというSNS分析ツールで検索すると、「ひろゆき氏、日本の脱炭素運動は無意味と持論「アメリカと中国が“減らす気ない”と言ってるのに…」(スポニチアネックス) - Yahoo!ニュース」[6/11/2022 ]という記事が関連記事、YouTube投稿と併せてトップに上がっていることに驚きます。記事元番組であるABEMA Primeタイトルが「脱炭素社会&EV激推しは欺瞞?MCひろゆきと議論」ということもあり、とても地球温暖化、脱炭素をめぐる議論に懐疑的、批判的な論調で論じられ、またスタジオゲストとしてキャノングローバル研究所研究主幹で書籍『「脱炭素」は嘘だらけ』等の著者である杉山大志氏も参加されていました。こうした否定的な議論に対して、国立環境研究所の公式ツイッターアカウントから以下のような補足コメントとともに、科学的な見地から執筆された記事の紹介等もされてます。どうしても研究者や公的機関からの発信は拡散されにくいという現実もありますが、冒頭ご紹介させていただいた「気候変動関連ニュースの読まれ方」を踏まえつつ、信頼できる、バランスのとれた情報にアクセスすることが重要、と改めて感じます。
① ABEMAで放送された下記番組の、脱炭素の議論を観た方が誤解されないように、いくつか補足します。 youtu.be/W9Tt5Cw5OUU 出演されていた専門家の方が「IPCCメンバー」と紹介されていましたが、IPCCは政府間パネルであり参加しているのは各国政府なので、執筆者をメンバーとは称しません。→気候変動、脱炭素、SDGsとメディアの試みとして、昨日国連広報センターから SDGメディアコンパクト に加盟する日本のメディア有志108社とともに、メディアの力を通じて気候変動対策のアクションを呼び掛けるキャンペーン「1.5℃の約束 – #いますぐ動こう気温上昇を止めるために。」がスタートしたことが報じられてます。キャンペーンは第77回国連総会ハイレベルウィーク初日の2022年9月19日(月)から、エジプト シャルム・エル・シェイク で開催される気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)の最終日(予定)である11月18日(金)までの2カ月間をキャンペーン強化期間とし、情報発信を強化するとのことです。
『ビジネススクールのカリキュラムに気候変動が登場〜環境テーマは、フリンジからメインストリームへ』[6/13/2022 Financial Times]によると、11億ドルの寄付による今秋設立予定のスタンフォード大学の気候変動・すステナビリティ学部をはじめとして、欧州ビジネススクールでも環境テーマがメインストリームになりつつある(まだ課題はあるものの)、という内容が紹介されてました。GAFA等の巨大テック企業を生み出したスタンフォード大学等での取り組みが今後3年、5年でどのように変化していくのかとても注目です。
上記記事と関連して、先週日曜日にスタンフォード大学卒業式でのネットフリックス社CEOのリード・ヘイスティング氏のスピーチも印象的でした。ヘイスティング氏は前日にコロナ陽生が判明、ビデオストリーミングによる登壇、そして卒業式が行われているスタジアム上空ではGoogleとFacebookでの雇用ボイコットについてのサインを掲げた飛行機が旋回していることも、一部で話題になってました。時代の変化を感じます。
ここまでお読みいただきありがとうございました。今回は以上となります。ニュースレターの構成、分量、切り口などは今後少しずつ工夫・改善をして変化をしていく予定です(フィードバック、感想、ご意見も歓迎です🙇♂️🙂)。
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市川裕康
株式会社ソーシャルカンパニー
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