こんにちは🙂
今回で2回目の配信です。新しく登録してくださったみなさん、ありがとうございます。
さて、過去1週間を振り返って気候変動に関して気になったニュースといえば…
国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が4月5日に公表した、地球温暖化の緩和策を盛り込んだ第3作業部会の第6次評価報告書、「IPCC報告書」
を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。テレビや新聞、オンラインニュースで見出しを見た、という方から、内容を深堀りして自分なりに何ができるか考えるきっかけとしている人まで幅広くいらっしゃると思います。
2100年時点の気温上昇を1.5度以下にするには、3年後の2025年までに温暖化ガス排出量を頭打ちにして、2030年に19年比で43%減、50年に同84%減とする必要がある、という厳しい内容が報告書では紹介されてます。一方で2010~19年の年平均排出量は過去最高で、このままではもはや1.5度目標の実現が難しい、という指摘もされてます。
そもそも今回の報告書は、日本を含む65か国278人の専門家らが昨年10月までに世界で発表された1.8万本以上の研究成果を分析してまとめられたものです。要約版でも64ページ(オリジナルのドキュメントは約3,000ページ)、文章も専門用語が数多く使われていてアカデミックな言い回しが多く、なかなか理解しにくいと感じる人も多いのではないでしょうか。
昨年8月に公開された第1作業部会報告書では気候変動の自然科学的根拠について、今年2月末に公開された第2作業部会報告書では気候変動が及ぼす社会経済、自然システムに及ぼす影響、脆弱性、そしてその適応策がまとめられていました。今回の第3作業部会報告書では「緩和策」がまとめられていて、今後に向けての対策が詳細に記載されている内容となってます。前回の報告書公表が8年前ということを考えると、正念場と呼ばれる今後3年間、8年間をを迎えるにあたり、当面の対策の拠り所となる本格的なロードマップといえそうです。
今回は日本語、英語のメディアでIPCC報告書に関する記事をいくつか見比べてみて、気になったポイント、解決策としてあげられている内容を書き出してみたいと思います。
【日本語メディア】
気候変動と闘う「手段としてのテクノロジー」を、わたしたちは生かし切れていない:国連IPCC報告書による指摘の重さ[Wired日本版 4/7]
「IPCC最新報告 温室効果ガス大幅削減の道筋は?」[NHK 時論口論 4/6]
📺10分間でコンパクトにまとめられてます↓ 4/13までNHKプラスで視聴可
📺【速報版】IPCC WGIII AR6 SPM見どころ紹介[国立環境研究所YouTube動画チャンネル] | 解説資料(PDF)
こちらの動画では今回の報告書の執筆に携わった日本の専門家による、図やグラフを用いた日本語での要約資料を解説する形で詳しく紹介されてます。前・後編併せて20分程度なので少し深堀りしてみたい方にはおすすめです。
【英語語メディア】
Six steps the world can take to halt climate change(気候変動を食い止めるために世界ができる6つのステップ)[Washington Post 4/4]
IPCC報告書といえば、今までも「人類へのコード・レッド(非常事態発生を告げる合図)」、「待ったなしの状況」という危機的なフレーズとともに、日々大量に流れるニュースの一つと受け取られがちな印象を自分自身、持っていたことがあります。ロシアのウクライナ侵攻、長引くコロナ禍、エネルギー危機、インフレ等の現実を踏まえながら、少しずつ進行していく気候変動による危機感は感じられにくい点も、気候変動問題の特徴かもしれません。
ただ昨年からこのテーマに強く興味関心を持ち調べていくうちに、見過ごせない大事な問題と感じるようになってきました。また、今回の報告書に盛り込まれているように、発電やエネルギー効率、輸送、建物、都市化、農業と食料安全保障、林業、消費者の選択等、幅広い領域での対策の選択肢が挙げられていて、大きなチャンスと捉えられるのではないか、とも感じ始めています。
IPCC報告書を受けて、様々なメディアで「気候変動を食い止めるために世界ができる「〇〇のステップ」として紹介されている中から「これは大事」と思った点を5つ挙げてみます。
再生可能エネルギーへの転換
10年から19年にかけて太陽光発電(85%)、風力発電(55%)、リチウムイオン電池(85%)の単価が持続的に低下し、地域差はあるものの、太陽光発電で10倍以上、電気自動車(EV)で100倍以上など、その普及が大きく進んだことが報告されてます。コストを削減し、導入を促進する政策手段として、公的研究開発や実証実験、パイロットプロジェクトへの資金提供、規模拡大のための導入補助金などの需要喚起の手段が今後期待されると指摘されてます。
建物の効率化
断熱性の向上、より効率的な冷暖房システム、再生可能エネルギーによる電力供給、より持続可能な建築資材の使用、さらに、こうした取り組みを促進するための公共政策や財政的インセンティブなど、さまざまな戦略も挙げられてます。
都市のクリーン&グリーン化
世界人口の半分以上が住む都市は、気候変動への対応に不可欠な存在で、都市部の土地面積は、2050年までにおよそ3倍になると予測されています。都市計画の簡単な対策、例えば密度を高め、住宅地と商業地を混在させ、人々が働く場所に住めるようにし、公共交通機関に沿って開発すれば、2050年までに都市の炭素汚染をおよそ4分の1に削減することができるとされてます。建築にリサイクル素材を使ったり、ガスの代わりに電気で建物を暖めたりすれば、さらに排出量を削減することが可能とのことです。
行動変容〜電気自動車を増やし、徒歩や自転車で移動する
電気自動車の普及、航空・船舶用水素燃料やバイオ燃料の開発、テレワークや都市計画による公共交通機関や徒歩・自転車での移動の増加など、文化や行動の変化を取り入れることが推奨されてます。このIPCC研究では「需要サイド」と呼ばれている行動変容については今回初めて言及された視点で、牛肉の消費や空の旅を減らしたり、建物のエネルギー利用を節約することで、最近のトレンドと比較して40〜70%の排出量を削減できるとも指摘されてます。
ネットゼロ達成のためには炭素除去は「不可避」
植林、機械による二酸化炭素の吸引、二酸化炭素の回収・貯留などの対策により、大気中から二酸化炭素を除去すること(CDR=Carbon Dioxide Removal )の重要性が今回の報告書で初めて強調されています。アイスランドやカナダで実施されつつあるダイレクト・エア・キャプチャー(DAC)等の取り組みにも注目が集まりそうです。一方で、気候科学者、環境保護主義者からは、こうしたまだ証明されていない費用のかかる技術をあまりにも重視しすぎているとする批判も根強くあるようです(まずは石炭火力発電を縮小し、既にある太陽光、風力による再生可能エネルギーを推進すべきという考え方)。
生活、産業の全ての領域に関係することでもあり、なかなか本当の意味で「腹落ち」して理解できたとはまだ言えませんが、少なくともいろいろな記事を読み比べてみることで少しはイメージを持つことができたように思います。今後もIPCC報告書についての分析記事、イベント、そしてそれらを踏まえた新しいプロダクトやサービス、新しい取り組み、制度、法律等も生まれてくることと思います。
ここでIPCC報告書についての各種メディアでの報じられ方について気づいたことが3点あります。
IPCC報告書に関する日本語圏での報道量・SNS上での言及数の少なさ。
大量、難解、複雑、そしてスケールの大きなテーマに関する報告書故、全体を漠然と描く記事が多くなりがち。ビジュアル化、動画活用など、分かりやすく伝えるための工夫が今後ますます必要と感じます。
大手メディアによる優れた分析記事の多くが有料課金のため多くの人にとってアクセスが難しくなっていること。
今後も「これは大事」と思える情報、記事にはできるだけ無料で閲覧できるものを参照しつつも、有料課金記事等は概要をまとめてお伝えするなど、工夫してみたいと思います。
最後に、米国NPOのClimate Interactiveとマサチューセッツ工科大学(MIT)が共同で開発したエネルギー・気候政策シミュレーター「En-ROADS」をご紹介させてください。
エネルギー及び気候変動政策の実施・強度を調整することで、温室効果ガスの排出量や大気濃度、気温上昇、海面上昇、経済などにどのような影響が出るかを簡単にシミュレーションすることができます。昨年6月に日本語対応もされています。IPCC報告書を読みながら、実際にそれぞれの緩和策がどのように作用するかを想像するためにも活用してみてはいかがでしょうか?教育現場やワークショップ、企業の戦略会議の機会等でも活用することでディスカッションをより「自分ごと」化することに役立つのではないかと思われます。
使用方法やマニュアルなどは以下のサイトからご覧いただけます。
「En-ROADS」を活用した政策シミュレーションガイド(チェンジ・エージェント社)
ここまでお読みいただきありがとうございました。今回は以上となります。ニュースレターの構成、分量、切り口などは今後少しずつ工夫・改善をして変化をしていく予定です。基本的には1週間を振り返り、それまでにTwitter、Linkedin、ブログ(note& Medium)に書いたことをまとめる形で配信できたら、と考えています。よろしければぜひお付き合いください。感想、フィードバック等もありましたらぜひお気軽にこのメールに返信する形でご連絡ください。
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市川裕康
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